weekly business SAPIO 2000/3/2号
□■□■□■□ デジタル時代の「情報参謀」 ■weekly business SAPIO □■□■□■□
                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

《短すぎては力を出せず、長すぎると腐敗を招く─政権寿命は何年がベストなのか?》


 先週の「weekly business SAPIO」で、フランクフルト消費財見本市における官僚の無責任体制を指摘したところ、日本のある人物からメールが届いた。内容は、「確かに官僚にはびこっている無責任体質はその任期の短さによるという指摘は正しい。しかしこうした無責任体質を助長しているのは官僚ばかりではない。むしろ閣僚の任期の短かさにこそ問題あり」というのだ。

 2月26日付朝日新聞によると、戦後日本の歴代総理大臣25人のうち、もっとも在任期間が長かったのは佐藤栄作元首相で7年半。次が吉田茂元首相の7年1カ月で、もっとも短い在任期間となると東久邇稔彦元首相の1カ月半、羽田孜元首相の2カ月と続く。小渕恵三現首相は2月25日で、師と仰いできた竹下登元首相と並んで576日(=約1年半)になったとある。
 これでは長期的なスパンで国家的事業を遂行するなど無理というものである。
 ことに最近のように頻繁に国際的な会議が開催されるなかで、次々と主役の顔が交代するようでは、マイナス材料にされ、不利な立場に立つことになる。

 サミットがまさにそうだ。サミットが始ったのは今から25年前の1975年である。この世界で最も権威ある国際会議に日本は唯一アジア地域代表、並びに有色人種代表として参加している。それなのになぜかこれまで日本の影が薄かったのは、頻繁に首長の顔がすげ返られられてきたからだ。
 ちなみに一国の首長のサミット参加回数は、最多がコール前首相の16回、次いで故ミッテラン大統領の14回、サッチャー前首相の12回と続く。日本は中曽根元首相の5回と橋本前首相の3回を除き、全て2回以下。細川・羽田元首相に至っては、1度も参加しないまま政権交代となってしまった。

 一方、ドイツはどうか。戦後の歴代首相は合計7人で、コール前首相は16年間も首相の地位にあった。占領国の利害がもろにぶつかる「ドイツ統一」を手がけ、成功に導けた要因の一つに、コールが長年政権にあって、世界大国のトップと交流を温めてきたことがあるのは事実だろう。
 もっとも、そのマイナス要素も見逃してはならない。コール前首相のその長期政権ゆえに、戦後最大のスキャンダル「ヤミ献金問題」は引き起こされたと考えられるからだ。

 この献金疑惑は、最終的にはコールが名誉党員を辞任し、コールの息が掛かっていた子飼いのショイブレが、2月16日、スキャンダルに関わっていたとして党首および院内総務の両ポストを辞任したことで、一応けりがついた。キリスト教民主同盟(=CDU)では、コール色を一掃して若返りが始まり、その最初のテストケースとして、2月27日(日)に北ドイツのシュレスヴイヒ・ホルシュタインで州選挙が行なわれた。開票の結果は、社民党43.9%(+3.4%)、キリスト教民主同盟35.0%(−2.2%)、自由民主党7.7%(+2.0%)、緑の党6.2%(−1.9%)。中央政府における戦後最大の政界スキャンダルの影響で、CDUは、SPDに今回もその勝利を譲り、第2党の地位に甘んじたものの、議席数は前回よりも3席増という結果になった。「魔女刈り」ともいわれたマスコミの熾烈な攻勢ですっかり信用を失ったかに見えたCDUだったが、州市民はそれなりにこのスキャンダルを冷静に受け止めていたらしく、惨敗にならずに当事者はほっと胸をなでおろしたということだ。

 一方、この州選挙で引き続き社民党と緑の党の連立政権が本決まりとなったことで、いよいよ現シュレーダー政権(社民党+緑の党連立政権)も足場が固まった。
 政権発足当時は、次々とその不手際を指摘され、地方選挙では全敗を喫し、「恐らくシュレーダー政権は短命でおわる、1期(=4年)も持つまい」と予測されていたが、ふって沸いたようなこのCDUヤミ献金疑惑で、いよいよシュレーダーは初期の念願どおり、2期=8年(彼は、私の「どれくらい政権に就くつもりか」という質問に対し即座に「2期(=8年)」と答えている)の政権に取り組むことになりそうである。

 ではなぜシュレーダーは8年政権にこだわっているのか。
 1つは、アメリカ大統領の任期が8年であり、シュレーダーもトップの座はそのくらいがちょうどいいと判断していること。
 2つは、コールの例でも見られるように、長期政権に執着するとろくなことはない
と見ていること。
 3つは、シュレーダーの家庭環境にある。父が戦死し、母は6人の子供を抱えて掃除婦で生活を支えるという環境の下、苦学し、どん底からトップの地位を獲得しただけに「余計な欲は出さない。野望には固執しない」と誓っていること。
 4つは、彼はもともといい意味の享楽主義者であり、プレイボーイでもある(再婚4度目)。精一杯任務を果たしたあと、余生は自分の生活信条で楽しむものと思っていること。
 以上の様な理由で、シュレーダーは8年という期間が政権寿命として適していると考えているようである。

 ところで、そのシュレーダー首相の出身地ハノーバーでは、2月24日〜3月1日まで世界最大規模といわれるハイテク情報国際見本市が開催された。しかもハノーバーは今年、3月20日〜25日まで世界最大規模の産業技術国際見本市が、3カ月後には「世界博覧会」の開催を控えている。それだけに、今回の見本市では、これらの宣伝も兼ねて、その力の入れようには格別のものがある。
 今回はこの国際見本市の様子についてもレポートしておこうと思う。

 このハイテク情報国際見本市の規模は、出展国66カ国(1位ドイツ4857社、2位台湾508社、3位アメリカ481社、4位イギリス317社、5位スイス126社、6位オランダ112社、7位フランス、スウエーデン109社、9位イスラエル、イタリア82社。以下、香港、ベルギー、ロシア、韓国、オーストリア、フィンランド、スペイン、ウクライナ、シンガポールと続き、日本は20位34社)、出展社数7802社(1999年7412社、1998年7238社)、出展社全使用面積は41万5416平米(1999年39万8913平米)で、昨年の見本市訪問者数は69万8319人だった。

 最初にこの国際見本市が当地で開催されたのは1970年。当時は出展社数638社(うちドイツ508社)、出展社全使用面積5万5335平米、見本市訪問者数は6万900人だった。あれから30年経った2000年の今日、出展社、訪問者数は約12倍、使用面積は7.5倍にまで膨れ上がった。
 事実、現在欧州におけるインターネットビジネスは年々増加しており、2000年の企業間取引は740億ユーロ、企業と消費者間取引は90億ユーロ、4年後の2004年には企業間取引1兆3180億ユーロ、企業と消費者間取引は2320億ユーロが見込まれている。

 ちなみに1999年のドイツにおける消費者のインターネット利用状況は、アンケートによると、以下のような結果がでている。

1. インターネットを通じて何を購入したか。
 100人中、「書籍」52人、「ソフトウエア」41人、「CD/ビデオ」38人、「パソコン用品」38人、「銀行サービス」21人、「衣服」20人、「テレコム器具」16人、「コンサートチケット」12人、「贈答用品」9人

2. その支出額は?
 「50マルク以下」29%、「50〜99.99マルク」25%、「100〜149.99マルク」10%、「150〜199.99マルク」7%、「200〜499.99マルク」13%、「500マルク以上」6%、無回答10%

3. その利用回数は?
 「1カ月に1度」48%、「3カ月に1度」42%、「週に1度」6%、無回答4%

 さらにインターネット利用の利点については、日本と同様、
1. 24時間、購買が可能
2. 店屋に立ち寄る手間が省ける
3. 正確な商品情報により、広い範囲で製品の比較が可能。
4. 価格の比較が容易。
 という点を挙げている。

 こうした中でドイツにおける情報産業就労者も、1997年167万人、1998年169万人、1999年174万人と確実に増加傾向にある。急成長過程のドイツ情報産業分野では、優れたコンピューター関係のハイテク先端専門技術者は引き手あまたで、現在ドイツ国内では7万5000人もの専門技術者が不足している。
 そのためシュレーダー首相は、EU域外から(とくに東欧諸国やインドなど)早急に3万人もの外国人ハイテク先端情報専門技術者を呼び入れるようゴーサインを出すことにした。
 もっとも現在ドイツは失業率10%以上、失業者400万人近くを抱えている。そのため労組や労働省では「この失業者の多い時期に外国人労働者求人とは何ごとか」と、シュレーダーの決定に強く反対している。とはいえ「背に腹は変えられない」という現状の他に、90年代初めに海外に職を求めて国外脱出した多くのドイツ人新卒学生ら、優秀な技術者を呼び戻そうという狙いもあるといわれている。
 いずれにしろ、このインターネット・ブーム、ドイツにとって嬉しい悲鳴であることは間違いない。

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