weekly business SAPIO 2000/5/18号
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                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

《民衆は飢え、為政者は私利私欲に走る─アフリカは未だ一部白人の餌食になっている》


 小渕前首相のご逝去を心からお悔やみ申し上げます。
 小渕前首相逝去の悲報を知ったのは5月14日(日)日本時間17時10分ごろ。
逝去されたのは16時7分。その1時間程前に、私は順天堂病院に電話をし、小渕前首相の秘書と話をしていた。その矢先のことだった。

 実はここ1週間ほど、小渕前首相のことが気になってしかたがなかった。つい2、3日前には、朝方うとうとしていたら、小渕前首相が夢の中にぽっと現れた。「これは捨てておけない」。そう思ったので、13日(土)日本時間17時ごろ、仲良しの横浜在住水谷妙子さん(ご尊父・故灘尾弘吉代議士の秘書)に電話し、「小渕首相の入院先である順天堂病院の電話番号を調べてほしい」と頼んだところ、おり返しファックスが届いた。
 電話口に出られた小渕前首相の秘書には、小渕前首相に一番お伝えしたいことを話して電話を切った。

 小渕前首相とのお付き合いは短かく浅かったけれど、その誠実さや人柄の良さ、奥に秘めた情熱を(これ見よがしにひけらかすことなく)控え目に出される性格は痛いほど伝わってきた。どこかドイツのコール前首相などの大物政治家に共通するものを発見していただけに、小渕前首相には、「ここは一つ腰を落ちつけて、ドイツに見られるような長期政権を達成し、ぜひ日本国のために役立ってほしい」と、そのことを幾度も申し上げ、お願いしてきた。それなのに残念でしかたがない。
 その小渕首相の人柄の良さはドイツでも知られていたようで、当日はドイツでも、小渕前首相死去の悲報をテレビ、ラジオを通じて、いっせいに報じていた。

 さて、小渕前首相への思いはこれくらいにして、本題に入る。
 今回は、ちょっとヨーロッパから離れてアフリカ問題、とくにシエラレオネ情勢についてその背後問題に関しリポートしてみようと思う。

 この問題では、国連が派遣している国連平和維持軍(PKO)兵士約500人が反政府軍に拘束され、そのため国連安保理メンバーの15か国のほか、シエラレオネはもちろんのこと、日本も含め11か国の代表が参加し、今後の対応について意見交換を行なったという。どのような意見が交換されたものか。ニュースはその内容まで詳細に伝えていないので見当がつかない。
 ただ、結論から先にいうと、アフリカ大陸ではシエラレオネをふくめその大半の国で、民衆は飢餓に見舞われているというのに、為政者たちは権力の虜になり、私利私欲に明け暮れている。そのために相も変わらず白人たちにいいように利用され、その餌食になっているのだ。
 シエラレオネもその例に漏れず、現状は悲惨というしかない。

 シエラレオナという国は、手短に記述すると、アフリカ西海岸にある人口約475万人の国である。アフリカ大陸の歴史が、最初はポルトガル、スペイン、その後イギリス、フランスなど主要西欧諸国の植民地として幕開けしたことは周知の事実だが、この国も1562年に初めてイギリス人が上陸し、現地民を奴隷として本国に連れて帰っている。やがて1787年に英国内における一部解放奴隷を祖国に戻すことになり、英政府は開放奴隷を再びこの国に移住させ、首都・フリータウン建設に就労させている。その後は1808年に海岸地帯を植民地に、1896年に内陸部を保護領とした。
 1930年にはこの国でダイヤモンド鉱山が発見され、突如世界主要国の注目を集めることになった。イギリスは、以後37年間にわたって(1961年にこの国が独立してからも引き続き)、この「ダイヤモンドの宝庫」の利権を独占し、富をほしいままにしてきた。
 ちなみに1972年にはシエレオネは世界第3のダイヤモンド産地となり、1995年のベルギー・アントワープにおけるダイヤモンド市場で取引されたシオラレオネ産ダイヤモンドは7万7800カラットといわれた。しかしこれはあくまでもオモテ向きの数字で、実際は21万カラットのダイヤモンドがアントワープで取引され、その金額は2兆2200万ドルに上るといわれている。

 イギリスによるのシエラレオネのダイヤモンド利権独占が一歩後退するのは1991年。東部リベリアとの国境地を拠点に、反政府勢力「革命統一戦線」(RUF)が蜂起し、政府側にゲリラ闘争を仕掛けたからである。首導者はサンコーといい、年齢は64歳。かつて英国植民地時代、英国軍隊に所属していた一兵士である。
 このサンコー率いる武装勢力「RUF」との内戦はその後8年にわたって続く。打ち続く内戦に疲れて、根を挙げた政府側は、とうとう1996年に、反政府軍と妥協点を探り同じテーブルについて和平交渉に臨んだ。その結果、昨年1999年7月には最終的に和平交渉が成立し、政府側は懐柔策として、サンコーに閣僚のポストを用意。これにより、ようやく8年にもわたって続いた長い内戦に終止符が打たれたかに見えた。ところがどっこい、今回ふたたび流血騒ぎが起きてしまったのである。

 なぜか。それは以下のような理由からだ。

1. このダイヤモンド鉱山争奪戦を繰り広げる政府軍と反政府府軍の背後には世界の強国(主として白人)があって、彼らを扇動しウラで糸を引いている。

2. その主たる目的は、熾烈な武器売り込みであり、その見返りがダイヤモンドである。

 つまり一部白人は、武器とダイヤモンドをワンセットにしてシオラレオネという国と関わり、この巨利を貪るためにはシエラレオネの国内が二分し、それぞれ勢力拡大合戦にうつつを抜かしている方が都合がいいと内心考えているわけだ。
 その事実を示すように、

1. 1995年には、政府軍側は英国と南アフリカから傭兵を導入し、一方、反政府軍側には東欧諸国(とくにウクライナ)とイスラエルによって訓練されたリベリアとブルキナフアソの軍隊が援軍についた。

2. コンゴ(ダイヤモンド、金、銅の産地)、アンゴラ(石油とダイヤモンドの産地)、スーダン(石油の産地)とナイジェリア(石油の産地)がそれぞれ敵味方に分かれ、国内にかかえる過激派をシエラレオネ国に送り込んで内戦に加担させようとしている。
 これは、シエラレオネ内乱のスキを突いて、あわよくば自国の輸出事業(資源の欧州市場への売り込み)に役立て、ことを有利に運ぼうと画策しているからだ。

3. こうした中で、近ごろとくに目立った動きをしているのが反政府軍のボスであるサンコー。彼はシエラレオネ国の政府閣僚という地位を巧みに利用し、各国の武器商人に積極的に働きかけ、武器買付けを行なっている。
 ちなみに、サンコーと接触している武器商人の名前としては、リベリアの大統領チャールズ・テイラーとその息子で商売に長けているチャールズ・ジュニア、かつて南アフリカの諜報機関員だった南アフリカ人フレッド・リンデル、イスラエルの退役軍人ヤール・クライン、現ウクライナ政府要人と密接な関係にあり、リベリアで熱帯樹林輸出会社を経営しているウクライナ人レオニード・ミニンらが挙がっている。

 というわけで、旧宗主国であるイギリスが自国民の保護に空挺部隊を投入しながら、今回それ以上の深入りを避けてしまった理由は、こうした複雑なシエラレオネ事情を前にして、下手に首を突っ込んで大やけどをしては取り返しがつかなくなると警戒したからである。

 つまりそこには、「イギリスの国益に反するのであればたとえ国連といえども見捨ててしまう」という、イギリス流国益優先の、センチメンタリズムを一切排除した冷酷な計算が働いているというわけだ。

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