weekly business SAPIO 99/1/28号
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                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

◆3年後、30億枚の不用マルク札が ”肥料”に変わる◆


 ドルと並ぶ基軸通貨として11ヶ国が通貨統合に踏み出して早くも1か月。好調だった「ユーロ」のスタートが8日以降、ブラジル経済危機に直面してぐらついた。
さっそく、日本の新聞は、「祝儀相場に“ブラジル”の洗礼」という見出しを掲げ、「ユーロ」の前途の多難さを記事にしていた。

 ところがどっこい、ここ「ユーロ」の本場フランクフルトでは、そうしたマイナス記事も、約半世紀にわたる「生みの苦しみ」を経てようやく達成しただけに、今となっては痛くも痒くもないらしい。”ユーロの番人”ドイゼンベルグ欧州中央銀行総裁など、この時期頻繁に開催されるフランクフルト市やドイツ株式取引所の新年会に出席しては、その都度、そうそうたる参列者を前に「ユーロ」の将来性を熱っぽく語り、今やフランクフルトの主人公といえば、ドイゼンベルグ総裁をおいてなしといった気配さえ感じられる。

 それはさておき、今回はそのドイゼンベルグ欧州中銀総裁の指揮下で推し進められている「ユーロ」の最終段階(3年後の2002年に出回るキャッシュ)に関し、一体どのような準備作業が行われているものか、ドイツを例に記述してみようと思
う。

 先ずドイツでは、2002年までに40億枚の紙幣を印刷し、120億個(=総重量6万トン)のコインを鋳造することになっている。
 その保管場所だが、当面、ドイツ連邦軍が全国25箇所に持つ保管庫を利用する。
ここから各地の銀行や信用貯蓄金庫に現金輸送車で持ちこまれ、スーパーやデパート、その他一般商店に振り分けられることになるが、これら現金運搬作業は平素の10倍以上が見込まれているため、作業は深夜と週末をあてる。

 また、2002年1月1日からは一般市民に対する両替業務が銀行や信用・貯蓄金庫の窓口で開始されるが、この混雑にまぎれ偽札やマネーロンダリングなどの犯罪行為が予想されるため、厳重な監視体制を布くとともに、登録を義務づける両替額をこれまでの3万マルクから5000マルクに下げる。

なお、現在ドイツ国内各地に約4万機の自動販売機が備え付けられているが、そのコインの両替作業も2002年1月1日から実施されることから、この日は休日を返上して全国の銀行および信用・貯蓄金庫の窓口業務を行うこととする。

 問題は回収した旧マルク紙幣とコインの処理である。何しろドイツ国内に出回っている紙幣だけでも30億枚(=総重量2600トン、一枚ずつ積み重ねると約300キロメートルに及び、エベレストの30倍の高さに相当する)あり、これにコイン200億個(=総重量8万トン)が加わる。

 とりわけ紙幣に関してはリサイクルが難しい。そこで浮上したのがバイオ肥料としての再利用案である。
 行程は、まず1)紙幣を断裁、2)60度の温度で粉末化する。3)10日間家庭の生ごみや菜園のごみとミックスし、堆肥化する 4)その後8週間、精密な製造と検査(=チェック)過程を経て粉末化する。
 その粉末を40キロ入りの袋に詰め製品化するわけだが、その販売価格は1袋たった5マルク、ユーロ換算で約2ユーロ強。商品名は「BIOFERMA」であ
る。

 もっとも、「ユーロ」登場で不用になるマルク札の行方=リサイクルについては、すでに4,5年前から検討されており、そのために、生物学者、化学者、技師、金融関係者など40人が動員され、それぞれアイデアを持ち寄った結果、肥料化して再利用することになったのである。

 なお、肥料化案のヒントになったのは、マルク札のリサイクルを手がけ、その実用化に成功したドイツのニーダーザクセン州所在の会社「Bacillus &Co」の実績である。
 そもそもこの会社が、こうした紙幣の肥料化製造にとりかかったきっかけだが、
1)この会社が環境保護に関心を寄せ、新製品開発に乗り気だったこと。
2)ドイツでは毎年3回、汚れたり破損して流通不能になった紙幣を回収しており、ニーダーザクセン州では数年前からこの会社にその古紙幣を持ちこみ、肥料への加工を依頼していた。
 というわけで、今回その実績が政府に認められ、「ユーロ」導入で不用になった
紙幣の始末=肥料リサイクル事業の一部をこの会社は引き受けることになった。
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発行 小学館
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