weekly business SAPIO 99/4/15号
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                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

◆執拗な空爆の裏にはNATO各国の 「ユーゴ復興景気」への期待がある◆


 バブル崩壊をきっかけとして,近ごろ日本の政治も少しずつ変わりつつある。今回の東京都知事選における石原慎太郎知事当選がそれを如実に示してくれた。これまでのような弱腰政治では外国の海千山千の政治家に太刀打ちできないからだ。つまりようやく日本でも強いリーダーシップを求められるようになったということだろう。
 願わくば、こうした良くいえば個性の強い悪くいえば鼻息の荒い政治家を,今後は温かく見守って育てていくことだろう。よもや寄ってたかって足を引っ張りたたきつぶさないことだ。

 というわけで、今回は政治の風向きが変われば、停滞している経済も自動的についそのパワーに引きずられて上向いていくものだということを、ユーゴ情勢に照らし合わせて見てみようと思う。

 なぜ、ニューヨークの株式市場が沸き平均株価1万ドルを突破したのか。
決してアメリカの景気がいいという単純な理由だけではない。アメリカのあのユーゴに対する毅然とした姿勢,頑として動じない強気に世界中が信頼をおいていることがこうした未曾有の株価高に繋がっている。

 しかもそのアメリカの好景気にひきずられるように、このところドイツの平均株価も5000マルクにまで押し上げているし、日本でも久しぶりに1万6000台 に回復した。この連動した上向き景気の背景だが、ドイツに関していえば、今回のユーゴ空爆において、アメリカと行動をともにし、NATOに対し終始一貫協調体勢を崩していないこと、一方日本に関しては、このNATOの決定に足並みを揃えていること。つまりアメリカに協力することは、こういう形でその恩恵をこうむる事でもあるのだ。それを知ることも大切である。

 もっとも欧州の立場にすれば、紛争は欧州大陸で発生していることであり、それゆえにアメリカの一人勝ちと受け取られかねない面がなきにしもあらずである。だが、そこはそれ、アメリカもこの辺のところは充分承知していて、その還元に心掛けている。第二次世界大戦後,アメリカがマーシャルプランで疲弊した欧州の復興に手を貸し、みごとに立ち直らせたのがその何よりもの証拠であろう。

 今回のユーゴ紛争でも、アメリカはNATOという軍事組織を動かし、共産主義の最後の砦ミロシェヴッチの牙城を包囲し、空爆によって破壊し尽くそうとしている。その一方で、そのユーゴ破壊が生産に結びつくことも考慮に入れている。ユーゴ復興に手を貸せば、欧州景気は活気を取り戻すからだ。そうした期待と計算が無意識に働いているからNATOの加盟国はもちろんの事,その周辺諸国もこのNATOのユーゴ空爆に異議を挟まないでおとなしくしている。

 この辺はアメリカと西側の冷酷な政治(=外交)と経済(=戦争景気)と安全保障(=軍事力)ぐるみの総合戦略といってよい。同時に今回、なぜ、ドイツの社民党と緑の党連立政権(本来なら戦争にことのほか敏感で反戦のはず)までが、これまでのイデオロギーをかなぐり捨てて(むしろ先の保守政権を上回る)、NATOに密着し協力しようとしているか。要するにドイツもまたNATOの本流にしがみついていることが無難であり得だと踏んでいるからだろう。

 これは、なぜあの鼻っ柱の強いラフォンティーヌが、突如蔵相辞任を表明し,政治のオモテ舞台から姿を消したかの謎解きにもなる。確かに彼は、金融政策で欧州中央銀行やドイツ連邦銀行に盾突き、欧州中央銀行総総ドイゼンベルグやドイツ連邦銀行総裁ティートマイヤーの怒りを買い,総スカンを食って孤立してしまった。

 しかしこれはあくまでのオモテ向きの理由で、実はラフォンティーヌにはどうしても譲れないものがあったのだ。それが今回の対ユーゴ軍事介入だったのである。
そのイデオロギーを捨てきれなかったばかりに彼は党から追い出され、政治と縁を切ったといわれている。

 いつまでもイデオロギーに拘泥し、NATOの方針に背を向けるようなことにでもなれば、せっかく第2次世界大戦後、こつこつと築き上げてきた歴代の政治家によるドイツ西側接近の努力が水の泡になる。そうなれば,再びドイツは西側からつまはじきにされ孤立しかねない。経済活性どころか景気回復さえ危うくなる。

 国益を優先し、国を存続させ繁栄させるためには、党の主張を180度転換させる事も潔しとするドイツ左翼政党の政権維持と獲得練金術である。こうした現実に沿った政治が実はドイツをしてアメリカを始め近隣諸国の信頼を回復し、今回のようなユーゴ空爆参加という大胆なドイツ連邦軍の行動に繋がった。そういう意味では、日本の野党も今後ぜひ参考にし見習ってほしいドイツの政治家気質である。

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