weekly business SAPIO 99/8/12号
□■□■□■□ デジタル時代の「情報参謀」 ■weekly business SAPIO □■□■□■□
                                      クライン孝子 TAKAKO KLEIN
                                             

《日本は「過疎の島」になるのか!?少子化問題を解決したドイツの例》

インターネット上の朝日新聞の記事に目を通していたら、次のような記事が目にとまった。“『日本は過疎の島に』NYタイムズが痛烈批判”という見出しで、「数十年先の日本はまるで過疎の島――米紙ニューヨーク・タイムズは1日、『今世紀の前半には軍事大国として、後半には経済大国として繁栄した日本が、再び輝きを取り戻すことはない』とする大型記事を第一面に掲載した。東京支局長を4年半務めたニコラス・クリストフ記者が離任に当って書いた、いわば卒業論文である。記事は『鎖国政策を捨てて145年もたつのに日本人の外国人移民嫌いはやまず、しかも少子化に拍車がかかってきた』」と続いている。

 確かに日本の高齢化と少子化が、これまでにない超スピードで進んでいるのは周知の事実である。このままこの問題を放置し、いたずらに先送りすれば、いつか日本は「過疎の島」化してしまうというのは案外当っているといてもいい。

 もっとも、アメリカがそうした指摘をしているからといって、日本が直ちに移民奨励策に踏みきれるものかというと、日本は島国であり、単一民族としての歴史しか持ち合わせていないだけに、慎重に立ち向かう必要がある。早まって一旦移民の窓を開けてしまうと、際限がなくなり、そのために混乱状態に陥るのは、日を見るよりも明らかだからだ。
「政府としても、少子化防止のために、移民という選択肢がないわけではないことは理解している。だからといって、アメリカのように最初から“移民の国”としてスタートした国と異なり、そう簡単に『移民受け入れ』というわけにはいかない」と、これは最近ある外務官僚が語ってくれた。当然のことである。
 日本はこの問題ではジレンマに立たされているといっていいのかもしれない。

 では、こうした問題に関して、ヨーロッパ、とくにドイツでは一体どのように対処しているのだろうか。今回は、前回の「weekly businessSAPIO」のバルカン難民問題と照らし合わせながら、アジアの貧困国と隣り合わせであり難民問題が決して他人事では無い日本に対し、参考のためにレポートしておこうと思う。

 ドイツでも高齢化と少子化の問題は、ここ何年か前までは重要なテーマの一つだった。だが、近ごろ、少なくとも少子化という問題に関しては一応曲りなりにも決着がついたと見られている。
 なぜそうなのか。
 ドイツでは、去る5月7日、1913年に施行された国籍法が86年ぶりに改正され、二重国籍の認可が可能になったからである。具体的には「ドイツに8年以上合法的に滞在する外国人から生まれた子供には、親の国籍とドイツの国籍の二重国籍を認め、23歳になるまでにドイツか親の国籍かいずれかを選択する」というもの。これによって、60年代の高度成長期、周辺諸国から受け入れた出稼ぎ労働者や、母国を追われ難民となってドイツに流入し、その後ドイツ国より正式に政治的難民として認められた者に限ってドイツ国籍取得が容易になり、従ってドイツ国籍取得者が増え、そのため最終的には少子化防止に貢献することになったからである。

 ちなみにドイツにおける在住外国人数だが、約730万人(ドイツの人口の9%にあたる)で、もっとも多いのはトルコ人の210万人。次が今回コソボ紛争を起こしたセルビアとモンテネグロで約72万人、3位がイタリアの約60万人、ギリシアの約36万人、ポーランドの約28万3000人、ボスニア・ヘルチゴビナの約28万1000人、クロアチアの約20万人、その他・・・・となっており、うち10年以上20年までの滞在者が約50%、20年以上滞在は29%である。

 一方、ドイツは日本のように海を隔てた国でなく、地続きの国だけに、ときには1日数千人もの不法難民が流入してくる。ドイツではその不法難民の就労は禁止されているため、彼らの大半が行き付くところは、いきおい犯罪の絡んだ闇世界の地下産業ということになる。
 問題はこのような不法難民取締りである。ドイツでは一体のどのような取締り強化策を行なっているだろうか。

 まず国内では、
1. 連邦国境警備隊の権限拡大(=国境から30キロメートルに限って検問を行なう権限をさらに拡大し、電車や駅構内、空港でも任意に旅券や身分証明書の提示を求める)

2. 人身売買、密入国を手引きする犯罪組織の摘発をスムーズにするために国境警備隊と州警察の連携を強化する。

3. 全国的な外国人登録リストの作成

4. 難民庇護申請者への社会保障給付の期間短縮を求めた『難民申請者給付法』の施行(これによって難民に認定されなかった申請者や滞在期間を認められなかった難民への生活保護手当てがカットされた。そうすれば、彼らのドイツ滞在のメリットがそがれ、自然に難民流入に歯止めが掛けられることになる)

5. 1998年3月、重大犯罪の容疑者に対する盗聴を認める『盗聴法』を連邦議会で成立(ただしジャーナリスト、医師、弁護士など20余りの職種は対象外)させ、警察官の捜査権を容易にした。

 さらに国外では、
6. EU15カ国による欧州警察=ユーロポール(本部はオランダ・ハーグ)を1998年3月に創設、国家間の情報交換や共同ネットワーク作りの任務に当る。

7. 冷戦時代に築かれた安全保障体制NATOや、その情報収集と諜報の役割を果たした連邦情報局(BND)が、EU諸国やアメリカ、カナダの諜報機関と緊密な関係を保ち、場合によっては取締強化のために共同で一致協調体制を図る。

というものである。

 現在日本でも、大掛かりな麻薬密輸などの組織犯罪が急増し、その背後に政治が絡んでくるケースも多く、こうした問題は他人事ではない。日本が最近神経を尖らせている北朝鮮問題は正にその典型的な事例といっていいだろう。
 特に日本は大陸と海を隔てているという利点があるとはいえ、

1. EUのような共同作業での犯罪取り締まりが困難である。

2. しかも、韓国、北朝鮮、中国、ロシアなど日本と隣接している国々は世界有数の諜報機関を有しているというのに、日本にはその諜報機関が無い。

 そのため、国際的な犯罪取り締まりは困難を極める。こうした危機に備えて、最近日本の国会でも「通信傍受法」に関する法案の議論が開始されているが、これは当然のことであろう。

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発行 小学館
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