クライン孝子の辛口コラム
ドイツからの警鐘 Vol. 1
「おかしいぞ、眞紀子外相バッシング」     
 
 日本で初の女性外相が誕生した。外相は、言わずと知れた田中眞紀子氏である。

まったく偶然だったのだが、ちょうどこの時期、私は日本へ帰国し、その間、自民党内の最大派閥、橋本派が総裁選で惨敗し、代わって党内改革派小泉新内閣が成立したその前後の様子をつぶさに目撃することができた。
何よりも新鮮だったのは、閣僚人事で若手代議士や女性閣僚五人を登用したばかりか、
重要閣僚ポストの外相にようやく女性が抜擢されたことだった。

 さっそく閣僚人事発表の翌日から、数人の代議士と会って話す機会があったのでその感触を探ることにした。
ところが、与党はもとより野党の代議士まで今一つ田中眞紀子新外相の評判がよくない。というよりも、むしろこきおろすのに余念がないのだ。

 なぜなのだろうと訝りながら、親しい官僚の一人に尋ねてみたところ、「あんないいポストを女性にさらわれたのだから、面白くないのは当たり前ですよ」という。それだけではない。
田中眞紀子新外相就任を歓迎していいいはずの女性議員もそうで、ある親しい女性地方議員など会ったとたん、いきなり彼女のことを、けちょんけちょんにこきおろしはじめた。
思わず私は「せっかく女性の政治参加に道筋がつけられたのに、これでは自らその機会を取り逃すようなもの。みっともないわよ」とたしなめたほどだった。

 しかもこの女性第一号外相パッシングだが、これで一区切りし、鎮火するのかと思っていたのに、一向に収まりそうになく、その一端が当地ドイツ国内にまでニュースとして持ち込まれてしまった。
そういえば、五月十五日付朝日新聞紙上では草野厚慶応大学教授が、「田中眞紀子外相が外務省と軋轢を起こし、国益を損なう状態にまで至っている。国益とは、この場合、省内の著しい士気の低下と、外相も重要だという日米同盟の毀損である。即刻、首相は外相を更迭すべきだ」などと胡散臭い国際関係論までおもむろに展開し、田中眞紀子外相パッシングを煽り立てていた。

 だが、これはおかしい。
まず外務省との軋轢だが、長い間のご都合主義と「なあなあ主義」に浸りきった外務省を変えるのにあのくらいの強烈なパンチを利かせないことには、そう簡単に変えられるものではない。
さらに日米関係だが、これだって外相が一度キャンセルしたくらい(というより調整中だった)で両国の関係がギクシャクするなど考えられない。

 だいいち、これまで日本こそ、余りにもアメリカの都合に合わせ過ぎっだったのではないか。昨年の沖縄サミットを思い起こすがいい。あの時、 オルブライト前国務長官だって、ご自分の国の都合でドタキャンしたではないか。
それなのに、なぜ一度日本の外相がキャンセルしたくらいでこうも大騒ぎするのか。日本だって一度くらいわがままを言っていいし、それでこそ対等外交というものである。
いずれにしても草野氏の一文を目にした仲の好いドイツ女性ジャーナリストのコメントがいい。
「やっぱり日本は男性中心社会なのね。なぜ、みんなで彼女をフォローして協力しようとしないのかしら。あれではどう見ても寄ってたかって、彼女を外相のポストから引きずり落とそうとしているとしか見えないじゃない?恥ずかしくないのかしら?」と。


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