クライン孝子の辛口コラム
ドイツからの警鐘 Vol.13
巧妙な世論操作にスパイの気配感じる
  (自由民主党機関誌7月9日付より転載)  

このほど「北朝鮮へ拉致された日本人を救う会」から届いた情報によると“北朝鮮船「万景峰号」新潟港への入港実績で、昨年は計二一回(下船客計三四二八人、 乗船客計三四九〇人)、今年は一月から五月まで計十回(下船客計一七三五人、 乗船客計二三七二人)”とある。私はこのニュースに目を通していきなり鈍器で頭を殴られたようにビックリ仰天した。

と同時に「ああやっぱり」という感慨を持ってしまった。というのは、「ベルリンの壁」崩壊直後だったから、かれこれ十二年前も前の話だが、そのころ最後の北朝鮮大使だった旧東ドイツ人にインタビューを申し込んだことがある。

東ドイツという国家が消滅し、北朝鮮大使を解任された彼には一種の開放感があったらしく、気軽にゴーサインを出してくれたのはいいが、最初に会う場所を「グリニッケ橋のちょうど真ん中、白線のあるところ」と指定したのには、苦笑いしてしまった。

実はこの場所、いわく因縁つきの東西ドイツ境界を隔てる橋で、冷戦中、大物小物を問わず、頻繁にスパイ交換に利用された場所だったからだ。インタビューも盗聴の危険から逃れるため歩きながら行うという。彼に会う前に収集した人となりでは、ポツダム所在の俗称スパイ養成大学卒とあったから、プロのスパイであることは承知していたが、これほど徹底しているとは思いもしなかった。その彼から聞いた話がショッキングだった。

「日本と北朝鮮は表向き国交断絶だが、その実ちゃっかりと水面下で多くの北朝鮮人が半ば大っぴらに日本に出入りしている。その主な目的とは日本での情報収集と世論操作だ」というのである。 
道理で欧州人、とりわけドイツ人が「日本はスパイ天国、あの国に情報を流すとろくなことはない。チェック機関が無く敵方にツツ抜けになるからだ」と警戒するのも分からないなと思った。

そういえば、現在日本では将来必ず、国家と国民にとって有益となる筈の個人保護情報法が壁に突き当たっていると聞く。
私はスパイに敏感なドイツに住んでいるせいか、こうして何が何でも反対し廃案にしようという一連の動きを目撃すると、どうも巧妙な世論操作に日本人がまんまと引っ掛かっているような気がしてならない。なぜなら彼らは手段を選ばないからで、いったんこれと目をつけたら最後、目的を遂げるまで執拗に妨害工作を展開するからだ。

今回もそうで、よりにもよって右よりの作家城山三郎氏や評論家櫻井よしこ氏をターゲットに、この法案をメデイア規制悪法と決めつけ潰しにかかっている。
とこう勘ぐるのは、決して私が疑心暗鬼の塊だからではない。第二次世界大戦後、東西ドイツに分断され、冷戦の要塞として情報=スパイ戦争の最前線にあったドイツ人なら、誰しもそう思い疑う癖が身についてしまっているからだ。

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