クライン孝子の辛口コラム
ドイツからの警鐘 Vol.38
   
主権侵害にどこまでも鈍感な日本

―外国人参政権の危険さに思いをー

 (産経新聞  2004年7月22日「正論」より転載)
  

≪なりすまし投票も可能に≫


 岐阜県御嵩町で町職員の確認ミスから投票権のない外国籍男性一人が参院選期日前投票で選挙区と比例代表の各一票を投ずるという「前代未聞の珍事件」が、発生した。

 この男性は友人の日本人男性とともに投票所を訪れた際、いずれも「入場券が無い」と再交付を申請。ところが職員は男性を有権者名簿にある日本人男性の兄と勘違いし、本人確認なしに男性にも入場券を交付してしまったのである。

 その後別の職員が入場券の期日前投票理由欄に記入された男性の氏名と一致しないことに気付いたものの、時既に遅く、男性は投票を済ませた後だったという。

 数年前、米国在住の在外邦人のネットによる呼び掛けで、私も発起人として名を連ね、日本政府を相手に損害賠償請裁判を東京地方裁判所に起こし、遂に二000年より国政選挙の比例代表在外投票権を勝ち取ってからというもの、必ず最寄りの総領事館で一票を投じている。

 だが投票では、その都度、本人確認の在外選挙人証とパスポートを提出を求められる。それだけに今回の事件には信じられない思いだった。

 不思議に思って、日本の知人らに問い合わせたところ、投票所における本人確認のずさんさを指摘する声は意外と多く、中には「私は今回二回投票しました。投票の際(午前中)、本人確認がありませんでしたので、夕方に妹のハガキを手に再び投票を試みました。すると『なりすまし投票』あっさり成功しました」という体験談まで聞いた。

≪背後に隠れた意図は何か≫

 しかも、地方の小さな町村では互いに顔見知りという事情もあって、「たとえ投票案内のはがきを忘れたり失くしたりしても、投票所の立会人がたまたま知 り合いであるなどで本人と分かれば投票可能」ともいう。言い換えれば立会人次第で「なりすまし投票」すら発生しかねないという。

 今回の事件ではこの外国人男性は「六月に二十歳になったので選挙権があると思っていた」と弁明している。しかしドイツに長く住み、東西ドイツの熾烈なイデオロギー合戦をつぶさに目撃し、すっかり疑い深くにっているせいか、私にはどうも背後にある意図が隠されているように思えてならないのである。

 もしかするとこの「前代未聞の珍事」とは今回の参院選で年金とイラク問題が最大焦点となり、すっかりその陰に隠れ埋もれた形になってしまっていた外国人地方参政権付与と微妙に連動しているのではないかーー。 そう思ったりもするのだ。つまり一種のデモンストレーションだったのではなかったのかと。

 なぜこのような疑問を持つに至ったかといえば、今回の参院選では、選挙後、待ってましたとばかり、日本での外国人参政権付与のトーンが(とくに民主党から今回当選した元朝鮮日報東京支社長の白真勲氏を中心に)日々高まっているからだ。「納税義務を果たしているのに選挙権がないのはおかしい」というのがその理由である。

 欧州、とりわけ私が住むドイツはどうか。私は日本国籍ゆえに、ここでは税金をきちんと納めているのに、いかなる選挙権の行使も許されない。だがそれが世界の大勢なのだ。なのに、外国人参政権付与を強弁する彼らの、真意=意図とは何なのだろう。

≪ドイツも寛容路線を修正≫

 いうまでもない。日本メルトダウン化にあると私は思っている。 「なりすまし投票」も辞さず、自国に有利な党の議員・政治家を選出し、外国人参政権法を日本で成立させる。そしていずれは、自国の意のままになる政権を擁立してしまう。私はこれを決して思い過ぎとは考えない。

 もっともこうした「戦わずして国を乗っ取る」と誤解されかねない戦略だが、欧州でもイスラム教徒がその戦略を早くから打ち出し、一部成果を挙げていり。ドイツでは、戦後ナチスの贖罪から難民や亡命者に寛大な政策ととったため、現在、外国人は全人口の九%を占めている。イスラム教徒は三百万人、うち三万人は危険人物とされる。

 その難民・亡命者寛大国ドイツですら、例の9.11同時多発事件後、移民寛大路線を大幅に軌道修正し始めた。来年早々にはテロリストなど危険人物の即国外追放する「新移民法」を施行する予定だ。

 ところが日本という国は、逆に、主権侵害には極めて鈍感だ。杜撰な投票方式はその一端だ。「国民総背番号制」などと反発する勢力もあろうが、写真付きIDカードを交付し携行を義務付けて本人確認を徹底することぐらいは必要だ。今回の事件は氷山に過ぎない。

to Back No.
バックナンバーへ