クライン孝子の辛口コラム
ドイツからの警鐘 Vol.39
   
急がれる武器輸出3原則の見直し

−航空宇宙開発での後れは死活的ー

 (産経新聞  2004年9月7日「正論」より転載)
  

≪タブー視されていた議論≫


このところ武器輸出三原則見直し論がかまびすしい。
具体的には日米両国による航空宇宙技術を含む、兵器の共同開発・生産を促すもので、米国以外の第三国に対しても、(1)米国が中心的役割を果たす(2)国際紛争を助長しない−という条件付きで認めようというものである。

 ある時期から私は、この日本にしか通用しない武器禁止三原則に疑問を抱くようになった。
これまでこの種の発言はタブー視されていただけに、その変わりように目を瞠るとともに大いに歓迎すべきと思っている。先ずは一歩前進というべきか。

ではなぜ私が武器三原則撤廃を必要と考えるのか。
実は次のような体験があるからだ。
話は十三年前(1991年)に遡る。
湾岸戦争が終結したのはこの年の四月だが、その後まもなくユーゴ紛争が勃発した。

私は直ちに取材のため紛争地クロアチアへ飛び、避難民や彼らを支援する反セルビア軍と接触 した。
そこでいきなり「日本から優秀な武器が手に入らないか。その武器でセルビア軍の侵略を食い止めたい」という質問をぶつけられたのだ。

「日本では武器輸出は一切禁じている」と答えたところ、 「それではみすみす侵略者に手を貸しわれわれ住民を見殺しにするようなものだ」。と反論してきた。 それだけではない。
「日本は世界に向けて武器三原則なるもので宣言しながら、実は武器の密輸を黙認しているではないか。
そう疑われてもしかたがないような奇妙な動きを水面下で行っている」というものだった。

当時、共産圏の国々の間では、北朝鮮ルートなど第三国経由による日本の武器のノウハウ並びに部品横流しは周知の事実として語られており 「武器は紛争抑止のためにも必要」と信じる彼らとしては、日本の武器輸出三原則の存在など信じ難いことだったのであろう。

様変わりの安全保障環境

そのユーゴ紛争終結の翌年には、9・11米同時多発テロが発生した。
軍事超大国・米国の中枢がやすやすと標的にされたことで、
世界はそれまでの地域紛争と全く異なった無差別テロの戦いという新しい紛争形
態に対峙することになった。
日本もいつ巻き込まれるかしれない緊迫した 状況の中で、武器禁止三原則はいまや日本の安全保障にとっても足かせとなりつつあるのではないか。
日本が早急に見直さなければならない主な理由は二つある。、
一つは核やミサイル製造に狂奔する隣国北朝鮮の脅威もさることながら、その背後にあって軍備拡張に腐心し、その強大化する軍事力をバックに理不尽な要求を日本を突きつける中国の横暴を黙視できなくなっていることだ。
中国は昨年世界三番目の有人宇宙船「神舟5号」打ち上げに成功した。
解体による混乱で機能不全に陥ったソ連から、数々の宇宙開発ノウハウを、実に有利な条件で入手する機会を逃さなかったことが、成功のカギの一つとされている。
今年5月には、25カ国体制に拡大舌ばかりのEU(欧州連合)主要国を温家宝首相一行。プロディ前欧州委員長との会談では、89年の天安門広場事件後から続くEUの対 中武器禁輸措置の解除を強く求めている。
ちなみに中国の武器輸出は98年〜02年、米露仏独英に次いで六番目にある。

≪日米協力の障害は排除を≫

 二つ目はEUの欧州航空防衛産業(EADS)の動きだ。旅 客機から戦闘機、衛星防衛システムまで一貫して扱う軍需産業の一体化が欧州では急速に進み、成果を挙げつつある。

 EADSは独仏とスペインの大手企業が共同出資し欧州最大の軍需産業企業として2000年7月設立した。
一国単位では資本と技術の両面で米国に太刀打ちできないとの危機感が背後にあったとされる。
英国やロシアにも参加を働き掛けており、世界トップの米国に激しく迫る勢いだ。

こうした欧州の新たな動きに対し、米国は対抗上、日本との共同研究開 発に強い意欲を見せている。
今回のブッシュ大統領による米軍再編はその突破口といえるの かもしれない。

日本にとっては、ようやく宇宙を視野に入れた防衛一貫産業確立の好機が訪れたともいえる。
何しろ二十一世紀の安全保障の勝敗を左右する航空宇宙開発大事業である。

 その協力相手は米国をおいてひかにはいない。日米共同事業を本格化させるうえでも、武器輸出武器輸出三原則がその足かせとなっているのであれば、見直しをためらっている場合ではないであろう。


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