クライン孝子の辛口コラム
ドイツからの警鐘 Vol.7
網に掛かる北朝鮮を待て!    
  どうやら二十一世紀最初の年に起ったあの米同時多発テロは、世界の価値観を一瞬のうちに塗り替える役目を果たしたようだ。少なくとも二十世紀の後半、第二次世界大戦終焉直後ニューヨークに国際連合が設置されてからというもの、タブーになっていたさまざまなことが解禁される事態に至っている。例えば国連憲章にそって明言されてきた人権だの、平等だの、自由だの、これらきれいごとが、この事件をきっかけに、少しずつ変化が見られ始めたからだ。この国連には人種の壁を超えてすでに二百カ国近くが加盟し、世界平和に貢献しているという。

 とはいえ、この国連という屋根の下には、どうみても国家とはいえないような怪しげな国の加盟も許されている。例えば身近な例では北朝鮮である。この国が国連に正式加盟を許されたのは一九九一年のこと。韓国とワンセットにしての加盟だった。
 ドイツも、東と西ドイツ分断時代、国連加盟(一九七三年)を許されているから、ことさら珍しいことではない。

 もっともドイツの国連加盟では、その後大いなる成果が見られたものだ。なぜなら、あの東西ドイツ二人三脚国連加盟をきっかけとして、ドイツでは西側の東へのアタックが、より熾烈になり、その結果、ドイツ統一につながったからだ。といっても、西ドイツが東ドイツへ軍事攻勢を掛け、力で押え込もうとしたのではない。そうではなくて「太陽政策」という方策で、カネ漬け、モノ漬け、時にはヒト漬け(あちらのスパイと西側が東へ送りこんだスパイとの交換)にしてそれまで東西ドイツ間で、頻繁に起こっていた拉致事件やその他諸々の事件を解決して見せたからだ。外貨不足で窮していた東ドイツにとって、何はともあれ、カネやモノはのどから手の出るほしい。「貧すりゃ鈍する」。こんなときはイデオロギーなどそっちのけというわけだ。

 最終的にはドイツはこの「太陽政策」が功を奏して、一九八九年、あの悪名高い『ベルリンの壁』は崩壊し、統一した。
 ドイツがこうして「太陽政策」で、統一を達成したのは、それなりの理由がある。
 一つはドイツは地理的に欧州大陸あって、中央に位置し、地続きである。実はその東西ドイツ境界線付近には、西はアメリカが、東は旧ソ連が最新兵器を持ち出してにらみ合い一触即発の状況にあったのだ。まかり間違えれば、ドイツ人同志の同志打ちになってしまう。ドイツ人としてはこれだけは何としても避けたかった。
 二つには旧ソ連も、破産寸前で持ちこたえられなくなっていた。
 そこでソ連は東ドイツの頭越しに、西ドイツに接近しカネと引き換えに「ドイツ統一」にゴーサインを出した。

 一方、北朝鮮はどうか。この国には中国という少なくとも二十一世紀前半、アジアの最強大国として アメリカと互角で対抗しようという国が背後に控えている。北朝鮮はこの中国という協力なバックを笠に着て、「ならず者国家」の名にふさわしく、麻薬密造と密売、ニセ札作り、拉致、日本におけるスパイ活動とやりたい放題をやってきた。タリバンやアルカイーダとの水面下での接触もそうだ。

 ところが、あの米同時多発テロ以後、この「ならず者国家」も微妙に揺れはじめている。  
 何よりも、このテロ撲滅では、中国もアメリカに全面協力を約束した。情報交換面では、今後両国はより緊密に行っていくという。
 こうなると北朝鮮の立場はなくなってしまう。
 その北朝鮮、今や、中国という後ろ盾を失って、じりじりと追い詰められている。
 それかあらぬか、その北朝鮮、最近次々とボロを出しているから愉快である。一方、日本にとっては、好都合である。それ相応の対応が可能になるからだ。

 昨年末の北朝鮮による一連の不可思議な行動がそうだ。北朝鮮の赤十字会が日本人拉致疑惑が日本で問題になっていることに反発して、「日本側が要請した『行方不明者』の消息調査を全面的に中止する」と発表して見せた。
 だが、日本もおとなしくしていない。、これまでタブーだった朝銀に警視庁の捜査の手がのびて逮捕者が出たり、奄美大島で徘徊していたという明らかに北朝鮮の不審船追跡では、自沈説のある中で、海上保安庁が追跡したうえ、応戦してみせた。

 そう、あわてることはない。日本には時間がある。今後は、中国の出方を見ながら、網に掛かってくる北朝鮮という魚を捕らえることだ。
 コメやお金はそのあとで調達しても決して遅くない。

    

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